イタリアで最もブルゴーニュ的なワインを造る生産者 | Le Due Terre 訪問 2/3
フラヴィオ・バジリカータとのテイスティング
食堂に場所を変え、” Sacrisassi Bianco 2007 ” と ” Sacrisassi Rosso 2007 ” をテイスティング。
「ブレッグ」という三歳の子犬。
さすが、動物。狂ったようにフラヴィオに、じゃれる。
犬好きの目には、実に、微笑ましい光景。
グラヴネルのワインと同名なのが、面白い。(恐らく偶然だろう。)
T:「犬のいる人生は、素晴しいよね。」
F:「全くだよ。人間にとって最良の友だね。」
丁寧に抜栓し、ゆったりとグラスへ注ぐ、フラヴィオ。
S:「2006年は、3年位置いた方がよいかもね。
今、抜栓した2007年は当然若いけど、この年は日差しが強い年だったのよ。
10~12日間、タンニンを抽出するためにマセレーション・スキンさせているのよ。
毎年ワインの造り方は微妙に違うのよ。だって天候は、毎年違うんですもの。」
F:「2007年は、謂わば「レギュラーな年」だね。6月~7月は雨が多かったが、夏暑く、かなり凝縮感が復活したんだ。
でも、他の殆どのワイナリーは、濃く、ハイ・アルコールなワインになって、苦労したようだね。」
” Sacrisassi bianco 2006″ は、スケールの大きいワインだったが、確かに2007の方がより繊細さがある。
(2007年は)ナチュラル・フルーツを感じさせる香りと味わい。
キャンディー香、白い花、ジンジャーの香り。
始めから酸味が広がり、フニッシュまでエレガントな酸味が長く続く。
一端、グラスの中でワインが落ち着き始めると、内側からミネラルがジワジワと顔を出す。
単にエレガントなだけでない。味わいに複雑さがある。
T:「みるみるワインの表情が変るね?」
とても嬉しそうに「そうだろう」と微笑む二人。
T:「このワインは長期熟成に向くの?」
この質問を皮切りに、「フラヴィオ教授」のレクチャーが始まる。
レ・ドゥエ・テッレのワインの特徴と理念
F:「いや、5年以内に飲むべきだと僕は考えているよ。10年後じゃ、ワインは死んでしまうよ。
赤ワインならば、10年置いてから飲むのも、まあ「あり」かもしれないけどね。
僕らの造るワインは、トノー(大樽)の中で、2年間の熟成を経ているからね。
既にワインとして、ある程度完成してからボトリングしていている。(飲んでもらう時期を考てえ醸造している訳で)
ピークを過ぎて飲んでも、それがベストな味わいとは、僕らは思わない。
長期熟成を前提にしていないから、極々少量の亜硫酸しか添加しないんだよ。
そもそも、亜硫酸はワインを殺すものだよ。
僕らは、長期熟成させて価値が上がるような、特別高価なワインを造ろうとは考えていない。
常に生活の側にあるナチュラルなワインを造りたいと思っているんだ。」
F:「いいかい。この白ワインは、伝統的な白ワインさ。
僕の爺さんは、同じ方法でワインを造っていたんだ。
今のような最新鋭のマシーンやコンピューターが無い時代にだよ。しかも1人で。
このワインの味わいは、モダンじゃないけど、昔ながらの味なんだよね。
凄いことだよ。60年前に造っていたスタイルだよ。
大事なものは、何一つ変っていないってことだな。」
F:「少しタニックに感じるのは、葡萄の皮からくる味。
10日~12日マセレーション・スキンによって得られる味だね。
この辺では、8日~10日程マセレーション・スキンさせるのが、伝統的なやり方だよ。
30日間~40日間と、長い間マセレーション・スキンさせる、ラディコンやラ・カステッラーダは、実は、かなり特殊なワインと言えるね。
従来、酸味が乏しい(トカイ・)フリウラーノと酸味が強くタニックなリボッラを混ぜる事で、ワインとしてのポテンシャルは大きく伸びたんだ。
僕のお爺さんは、1901年生まれ。 1980年に亡くなったけどね。」
S:「フラヴィオのワインの先生よね。」
F:「そう。 彼はケミカルなワインは一切、造らなかった。
Acido Tartarico(酒石酸)や Acido Citrico(クエン酸)を、添加するようなことは一切なかった。
正しく、このエリアのトップの造り手だったし、伝統的なトカイ(フリウラーノ)を造る、名人だったんだよ。」
2本目の ” Sacrisassi Rosso 2007 “も、華やかな香りがする、素晴しいワイン。
日本で飲んだ2006年よりも、更にエレガンスを強く感じる。
熟成を伺わせる血のようなニュアンスを感じた後、アセロラ、レッドカラント、茎を思わせる仄かなブーケ、果実味からくる甘い香りが追いかけて来る。
アセロラ的な酸味を感じた後、ミドルに果実味が広がる。
更に後半にかけてタニックさが顔をのぞかせ、フィニッシュに向かってエレガントな酸味が長く持続する。
限りなくピュア。胃から上がってくる香りと共に、繊細な印象が後味に残る。
・・・完璧だ。
レ・ドゥエ・テッレの友人たち
いつしか、ワイン談義は暴走し始める。
S:「 Nicola Manferrari (ニコラ・マンフェラーリ) の所は、訪ねた?」
T:「もちろん。」
F:「彼は、クレイジー・マンだよ。」
T:「えー。 いやいや、とても紳士的な人だったよ。」
S:「いやいや、彼は≪ツー・フェイス≫。二面性が魅力なのよ。実はクレイジーよ。
一月前にニコラ夫妻と食事したんだけど、彼、お酒が入ると変るのよ。
セラーの中でね、ウーン、ウーンと、とても愛くるしいく・・」
F:「でも、始めはジェントルマンだったぞ(笑)」
S:「でも、時々ぶっ飛んじゃうのよ。」
T:「いやいや、もっとイっちゃっている人を知っているよ。 Edi Kante (エディ・カンテ)がいるじゃない !!」
S:「あああ、カンテ!! 確かに彼は凄いわ!! 偉大なクレイジー・マンよ(笑)
なんか、フリウリの事情は、全部日本に伝わっているみたいね。」
T:「僕は、3年前にカンテのセラーを訪ねたんだけど、彼のワインは本当に素晴しいよ。 大好きだよ。」
S:「彼のマルヴァジーア、あれはボーノ!! あのバランスの良さは尋常じゃないわね。」
ワイン・ジャーナリズムとの闘い
T:「あなた達のワインのバランスだって、素晴しいよ。メルローも、ピノ・ノワールもね。
でも、ガンベロ・ロッソの評価は何故か低いよね。( Sacrisassi はトレ・ビッキエーリ常連だけど)」
F:「あーーーー。 Vini d’Italia ね。 奴らは繊細なピノ・ノワール、好きじゃないからな。
(良い)ピノ・ノワールってものを知らないんだよ。
そもそもワインの味なんか、理解していない連中だしな。
連中は、頭からこのエリアの事を、ピノ・ノワールを造るのは難しいエリアだって決めつけているんだ。
強くて、濃い赤ワインばかり高い評価をしたがるしな。
デリケートなワインの味わいなんて、判らないんだよ。」
F:「10軒ワイナリーがあれば、10通りのワインの味わいがあるし、それに年毎にワインの味わいは違うモノでしょ。
一つのスタイルの味わいが、好みでないとしても、評価が固定的なのは、やはりどこか可笑しい。」
F:「そもそも、毎年飲んでいる訳ではないしな。(笑)
(フラヴィオは、奴らは2001年ヴィンテージのテイスティング以降、飲み比べていないだろう、とも言っていた)
まあ、確かにこの一帯で、ピノ・ノワールを造るのは、大変なことなんだよ。
本当に優れたピノを造っているのは、このエリアでも2軒か3軒だしね。」
S:「私たちは、フランス風のピノ・ノワールが好きだし、クローンも敢えてフレンチ・クローンを選んで植えている。
栽培の難しさも、それに由来している部分が大きいわね。
でも、この辺で「ピノ・ノワール」として植えているクローンは、『ブラウ・ブルグンダー(彼らはオーストリア品種と言う)』だし、Vini d’Italia で高評価を得ているアルト・アディジェ産も、殆ど『ブラウ・ブルグンダー』よ。」
F:「ガンベロ・ロッソの連中やジャーナリスト達は、ここのフリウリという難しい気候と戦いがら、真剣に「ピノ・ノワール・フリウラーノ」を造ろうと思っている生産者達を、軽んじている。
テイスティングの経験も浅い。
この土地のテロワールの味わいを、すすんで(飲んで)学ぼうとはしないんだ。」
S:「でも、私たちは今の状況に大いに満足しているわよ。
日本、ロンドン、ニューヨークとか(味の判る)限られた国に、特に優れたフレンチワインの味わいを知っている、限られた飲み手の届けられている、今の状況にね。
そう言えば、この前のヴィニタリーでも、パリの某一流レストランで働いているフランス人ソムリエと知り合ったんだけど、彼は、「おせいじ抜きにビューティフルなワインだ」と褒めてくれたのよ。
ブルゴーニュ生産者のワインを、日々テイスティングしている人よ。」
二人のピノ・ノワールに対する熱い想いはよく理解できたが、個人的には、レ・ドゥエ・テッレのワインの中では、メルローが一番好きだ、と言い出すタイミングは、最後までなかった。