イタリアで最もブルゴーニュ的なワインを造る生産者 | Le Due Terre 訪問 1/3
フリウリの5月は梅雨。
ようやく雨がうっすらと上がった昼過ぎ、” Flavio Basilicata (フラヴィオ・バジリカータ)” と ” Silvana Forte (シルヴァーナ・フォルテ)” が待つ、 ” Le Due Terre(レ・ドゥエ・テッレ)” へと向かう。
Le Due Terre (レ・ドゥエ・テッレ)のワイン
「レ・ドゥエ・テッレのワイン」と言えば、まずは名前が思い浮かぶのが、「聖なる石」を意味する ” Sacrisassi (サクリサッシ) ” だろう。
” Sacrisassi Bianco ” は、 フリウリを代表する白ワイン用葡萄 ” Friulano (フリウラーノ)” と ” Ribolla Gialla (リボッラ・ジャラ)” という地場品種を混醸した、エレガントなワインである。
” Sacrisassi Rosso ” は、彼らのセラーがある ” Prepotto(プレポット) ” を中心に精力的に栽培されている地葡萄” Schiopettino (スキオペッティーノ)” と、フリウリの代表的な赤ワイン用葡萄である ” Refosco (レフォスコ)” を、50%ずつブレンドした、素晴らしいワインである。
2つのワインとも、、世界的に高い評価を常に獲得しており、日本でもファンが多い。
国際品種と呼ばれる、” Merlot(メルロー)” や、” Pino Nero(ピノ・ネロ/ピノ・ノワール)” といった、単一葡萄の赤ワインも生産している。
このあたりでは、Merlot は、とても馴染みのある品種である。
まず、ハプスブルグの統治下にあった時代、フランスより Merlot の苗木が持ち込まれた。
その後、” Cormons “のエリアを中心に、次第にフリウリ一帯へと広がり、以来、” Merlot ” は、さも、大昔からフリウリ栽培されていた品種であるかのように、地元の飲み手たちにも受け入れられてきた。
しかし、温暖化の影響もあるのだろうが、昨今では、総じてビッグでハイ・アルコリックなワインが多くなっている。
ところが、フラヴィオ・バジリカータの手に掛ると、なぜか、果実の凝縮感とフィネスが共存する、ドラマティックなワインへと変貌する。
彼らの造るメルローには、もはや、「魔法」としか言いようのない感動がある。
Pino Nero に至っては、現在イタリアで生産されている、同品種100%のワインの中では、恐らく、最良のワインである。
幻の白ワイン
「レ・ドゥエ・テッレのワイン」を語る上で、忘れてはいけないワインがある。
甘口ワイン用地場品種であり、D.O.C.G.ワインの原料ともなる葡萄、” Picolit (ピコリット)” で造った辛口ワイン、” Implicito (インプリチト)” だ。
” Implicito ” 2001年まで生産していたが、現在は畑を持ち主に返してしまった為、生産されていない。
これまで、何度か飲んでいるが、こんなローカル品種から、どうしてここまで高貴な味わいのワインが出来るかと、飲む度に驚かされる。
渋谷区にある人気のイタリアワイン・バー ” bar & enoteca implicito ” の店名は、このワインからつけられた。
敬愛するワインの名前を店に使わせてもらうために、オーナーのM氏自らが、わざわざフラヴィオのセラーまで足を運んだ、という逸話がある。
Le Due Terre の概略
” Flavio Basilicata (フラヴィオ・バジリカータ)” と ” Silvana Forte (シルヴァーナ・フォルテ)” の二人が、「レ・ドゥエ・テッレ」としてワイン造りを始めたは、1984年。
既に4半世紀が過ぎようとしている。
彼らは、自分たちの目の届く範囲内でしかワインを造らない、というポリシーがあり、必要以上に畑を広げない。
現在、4ヘクタールに満たない畑で、全アイテム含めて通年17,500~20,000本程度の量しか生産しない。(レンタルしていた畑を返す以前は、4.5h)
内訳は、
- Sacrisassi Bianco 約3,000本
- Sacrisassi Rosso 約7,000本 (+若干のマグナム・サイズ)
- Merlot 約4,500本 (+若干のマグナム・サイズ)
- Pino Nero 約3,000本 (+若干のマグナム・サイズ)
というのが、標準的な生産バランスである。
前述のとおり、彼らの代表的なワイン ” Sacrisassi (サクリサッシ) ” は、畑を開墾する際、教会の遺跡(瓦礫)が出てきたことに由来する。
彼らのセラーは、人気の少ない切開かれた森の中にある、寂れた古墳のような小山の上に、ポツンと建っていてる。
かつて、人が大勢集まる教会が、こんな森深いところにあったとは、にわかに信じがたい。
訪問
緊張しながらセラーの入口まで車を進めると、シルヴァーナは、突き抜けるような陽気さで出迎えてくた。
テキパキとした所作。
フランクで、小気味のいい会話。
彼女の頭の回転の速さが伝わってくる。
S(Silvana):「本当によく来たわね。 フラヴィオは奥。 畑にいるわよ。さあ、こっち、こっち。
あ、雲の流れが早いから、急に雨が降りそうね。
外に停めてある車の窓ガラスは、閉めておいたほうがいいわよ。」
屋敷の中を潜り抜け、庭を通り、畑のある坂道を下っていく。
辺りは、一面の花畑。
S:「(この季節は)急に雨が降ってくるのよ。急に雨が降ったり、陽が差したり。
ラディコンの所もそうだったでしょうけど、今年(2008年)は、雨の影響でベト病が(この一帯では)多く発生しているのよ。
ナトゥラリスタ達にとっては、大きな問題だわ。」
T(僕):「昨日、” Klinec (クリネッチ)” にも行ったけど、同じ事を言っていたよ。」
S:「あら、” Medana(メダーナ)” の クリネッチね。 彼らは、良いレストランをやっているわね。
私たちも良く食べに行くのよ。 ウロスもアレックスも友達よ。
ちょっと前までスロヴェニアに行くには、パスポートを用意したり、色々と手続しなくちゃいけなかったりして、大変だったけど、今じゃ、そのまま往来出来るようになったから、シンプルでいいわよね。」
S:「見て、ここがピノ・ノワールの畑よ。」
と指し示す方を見ると、” Flavio Basilicata (フラヴィオ・バジリカータ)” を、発見!!
稀少な晴れ間を惜しみ、黙々と畑仕事をしている。
友人の ” Taurasista 氏” からの事前情報によると、彼は英国のロックバンド ” Queen ” の大ファンらしい。
He was bone to love wine (making)…
フレディ・マーキュリーならぬ、「フリウリー・マーキュリー」である。
T:「木の間隔は1m位なの?」
F(Flavio):「そう。この地方は、雨多く、水分を多く含む地質特徴を考えると、1m間隔の植樹密度がベスト・ポジションだ。
しかし、日光不足と大雨によりベト病が発生して、今年は(畑の)世話が大変だよ。」
スキオペッティーノの畑、どの木も台木が力強い程太く、丁寧に手入れをしていることがわかる。
ワイン談義前哨戦
シルヴァーナから、いきなり面白い質問が飛んでくる。
S:「貴方は、ボルドーとブルゴーニュ。どっち好き?」
T:「えーーーと、難しい質問だね。 6対4でブルゴーニュかな。
でも、90%のブルゴーニュは不味いと思っているよ(笑)
10%の偉大なピノ・ノワールだけが、ブルゴーニュの評価を不動のものにしていると思う。」
S:「(言うわね、という顔をして)ピノ・ノワールは難しいのよ。(大笑)
私たちは、より伝統的な味わい、エレガントな味わいを目指しているのよ。
(つまりブルゴーニュ的表現を目指している、と言いたかったのだと思う)」
T:「最近のブルゴーニュ・ワインは、随分とジャミーなワインが多くなったよね。」
S:「ビッグ過ぎるワインの事ね。
どちらかと言えば、私たちはエレガントなスタイルが好き。
ピノ・ノワールでも、スキオペッティーノでも、私たちは、エレガンスを追求したワイン造りをしているのよ。」
意地悪な質問には、意地悪な質問で返すのが、日本男児の作法。
T:「実は、Movia (モヴィア)のピノ・ノワールを、前日に飲んで来たんだけど、どう思う?」
S:「(ニヤニヤしながら、)私は彼のピノを飲んだ経験は僅かなので、大層なことは言えないわ。」
(なかなか口が堅いけど、クリネッチに行くなら知っているでしょ? 歩いて5分だしね。)
T:「とても親しみやすい味だったが、ビッグだったよ。イージーなワインという印象だね。」
S:「(笑みをこらえながら) Yes, Yes…」
一端、畑仕事を終え、一緒に彼らの家に戻る途次、
S:「他は何処尋ねたの?」
T:「(ピノ・ノワールの造り手を聞いているのだと思い)Bressan (ブレッサン)のところだね。」
S:「おお。 クレイジーな奴だよね。(笑)」
T:「見た目がマフィアのようだよ。でも最高だよ、奴は!
人格もワインも凄く良い。」
F:「ワインを知ると、彼の風体は想像できないよな。(笑)」
・・・どうやら、「クレイジー」とは、彼らにとって「ちょっとぶっ飛んでいるけど、良い酒造るニクい奴」という褒め言葉らしい。
セラーの中へ
S:「ここがウチのセラーよ。小さいでしょ」
セラーの入口で、フラヴィオが、土を叩き落しながら靴を履き替えている。
レ・ドゥエ・テッレのワインは、酵母もMLFバクテリアも全て天然のもの。
セラー内の環境には、とても気を遣っている様子が伺える。
いつしか、日本の正規インポーター、ラシーヌの話に。
T:「合田さん、知っているでしょ。」
S:「もちろんよ、マダム・ゴーダ。 彼女はジェントルだし、綺麗よねぇ。
ラシーヌの(ワイン)セレクションは、偉大なワインばかりだし。
彼女と仕事が出来て、とてもハッピーだと思っているよ。」
T:「とてもラッキーな事だと、思うよ。 ラシーヌは日本屈指のシリウスなインポーターだよ。」
S:「そうね。目利きだし能力が高いし、本当に素晴しいわ。
私たちは彼女と知り合って10年来になるけど、テロワール時代からの付き合いかしら。
私たちとの付き合いはその頃から始まったのね。
そういえば、彼女4月の第一週に、ここに寄ってくれたのよ。
確か、 Vinitaly (ヴィニタリー)の直前だったと思う。 一緒にランチをとったの。
本当に良い関係だと思うわ。
それに彼女と知り合えたから、日本や日本人の事が好きになったのだと思うの。いつか日本に行ってみたいわ。」
S:「今、2008年と2009年の2年分のワインがあるわ。
唯一の白ワイン Sacrisassi Bianco がこちら側。 未使用の樽が反対側ね。
私たちは新樽を使わず、熟成にはバリックを古くして使うの。(醸造行程においてコンクリート・タンクとカスク使用するが、)
どのワインも基本的に22ヶ月間バリック熟成させるの。
その間、酵母を活性化させる為にバトナージュを定期的に行い、濾過・清澄せず、ボトリングした後、約4ヶ月エイジングさせ、出荷ね。
こちらの樽が、赤ワインね。メルロー、ロッソ、ピノ・ノワール。」
ワイン・ストックの奥でゴソゴソしているフラヴィオ。
物静かに微笑みながら、「ほれ、 Implicito !!」と、差し出してくれた。
F:「もう、我が家にも3本しかないからね。その内の1本だよ。 約束していたからね。(笑)」
S:「そう、約束は、約束よ。(笑)」
・・・二人にサインまで貰ってしまっては、容易な事では飲めないワインとなってしまった。