グラヴナー(グラヴネル)訪問の思い出 2/2
ガイドの、ミハも、徐々調子が出てきた。
僕の「何故何故攻撃」に、全て正面から答えてくれる。
「Ribolla(リボッラ)」と「Breg(ブレッグ)」との違いについて
ミハとの会話の中で、印象深い話を1つ紹介したい。
同社の2大白ワインである、” Ribolla(リボッラ) “, ” Breg(ブレッグ)” の味わいの違いについて、彼ならではのユニークな解説である。
「リボッラは口の中であまり広がらず、食道を通り胃へとゆっくり垂直に落ち、余韻が長い。」
「一方、ブレッグは口の中で一気に横に広がり、食道でスパン!と余韻が止まる。」
「これが、2つのワインの明確な違いなんだ!」
あくまで「俺流(ミハ流)解釈」という前置きだが、身振り手振りを交え、その違いを説明してくれた。
確かに、この日、ボトリング前の大樽から直接注がれたワインを飲み比べた限りでは、彼の言う通り、その違いは「一飲瞭然」だった。
ヴィンテージの違いによって多少の差はあれど、彼の解説は、見事にワインの特徴を捉えている。
読者の皆様も、是非両アイテムの飲み比べを試してほしい。
きっと、肉食用(とくに油の多い豚肉)には「リボッラ」、ベジタブルや魚介系料理用に「ブレッグ」が向いていると感じると思う。
※経営戦略的な点からも、食中酒として役目が全く異なる2アイテムに集約したのは、正解だと思う。
グラヴナーの造る、偉大な赤ワイン
次に、地場品種の新アイテム ” Pignolo(ピニョーロ) 2006 ” も試飲した。
” Pignolo(ピニョーロ) の樹齢は、まだ6年程と若く、メルロー程の複雑さを感じることは出来なかったが、確かに可能性を感じる、豊かな味わいのワインだ。
「将来的なポテンシャルは、メルローを遙かに凌ぐはずで、今から楽しみだ。」
「たぶん、そのうち、外来品種であるメルローの生産も止めると思うよ。」
と、これまたグラヴナー・コレクター殺しの一言をサラリと言ってのける。
おい、ちょっと待て!
今のフラッグシップ・ワインである、 ” RUJNO (ルーニョ) ” はどーなんのだ?
と、突っ込みを入れようとしていた矢先、「 RUJNO 03 」の張り紙の付いたボッティ(大樽)を発見!
熱い眼差しを送り続けたのが効いたのか、熟成中の未売品「 RUJNO 03 」も、グラスに注いでもらった。
今にも爆発しそうな、強烈で巨大な果実味。
まるで太陽そのものを、口に頬張っているのではと錯覚しそうな、強烈な印象だった。
ちょうどこの訪問の前夜に、ラ・カステッラーダのニコの家族との会食の際、” RUJNO (ルーニョ)1994 ” を飲む機会があったが、その味わいたるや、ねっとりと舌に果実味がからみつくような、なんとも淫靡的な雰囲気のするワインになっていた。
若く生命力に溢れた「 RUJNO 03 」は、10年後には、どのような変化をとげるのだろうか。
アンフォラの醸造現場
さて、鼻と舌で「GRAVNERの偉大さ」に圧倒された後は、実際にアンフォラを使っている現場を見せてもらった。
入室するや否や、部屋の中は、マセレーション時の(少し硫黄臭のような)特有の香りで充満している。
ややもすると、息苦しいほどだ。
僕が訪問した10月中旬は、COLLIO では、リボッラの収穫が終わり、ソーヴィニョンの収穫が始まって間もない時期である。
アンフォラで、マセレーションされた白ワインが、どのように発酵しているのかを見るには、絶妙のタイミングだった。
薄暗い部屋に下りると、板を渡らせた床に穴が、いくつも空いている。
土に埋まった、アンフォラの口である。
アンフォラは、グルジアで作られたもので、深さ2m程。
わざわざ、グルジアからイタリアまで、トラックで運んで来たそうだ。
アンフォラが埋まる様は、まるで、「もぐらたたき」のようだ。
ミハ曰く、「このアンフォラは(テラコッタ出来ているので) 目に見えない細かな穴を通し、ワインが外部の空気を取り込み、まろやかなモノになる」との事。
では、その穴を通し外部にワインが漏れ出さないのだろうか?
「それを防止するために、内部には蝋(ろう)を塗り込んであるのさ」(笑)
なるほど、確かにアンフォラの口にまで、5mm位の厚さでビッシリと蝋が塗り込まれてる。
「ん? それじゃ、ワインは呼吸できないのでは?」と、これまた大きな疑問を抱いてしまった。
ミハがピジャージュ用の棒を取り出した。
アンフォラの穴にかぶせてある段ボールを取り払い、収穫したばかりのソーヴィニョンが詰まった果汁をかき回し始めた。
ゴッポ、ゴッポ音を立てながら、空気を練り込むように混ぜ込んでいく。
次の瞬間、シュワーっと炭酸ガスの泡が立ち上る。
部屋に満ちた、独特の臭いの正体は、このガスだ。
ミハいとも簡単にやってみせますが、実はこれが大変な重労働である。
かき回す、櫂(かい)の重いこと。
すぐに果帽(葡萄の皮や茎などが浮いて固っている部分)が、すぐに固まってしまうため、櫂が思うように入っていかない。
アンフォラの中で櫂を動かすなのど、不可能に感じた。
だいぶ柔らかくなってきた、という7日目のアンフォラで、この始末である。
3日前に収穫したソーヴィニョンを突かせてもらったが、、体重72キロ、胸囲95センチの、男の全力をもってしても、櫂が全く入っていかない。
「1日~3日目位までは、本当に堅くて苦労させられるよ。」とのこと。
彼らは、この作業を一日6~8回行うそうだ。
このグラヴナー訪問とは別の機会に、ラディコンに、グラヴァナーがアンフォラでワインを造ることについて、たずねたことがあったが、彼は、否定的な立場だった。
アンフォラ自体に特別な効果はなく、むしろ、マーケティング的要素の方が強いのでは、という考え方のようだ。
しかし、実際にセラーを訪ねてみてわかったのだが、アンフォラ・システムにも大きな利点があるように思えた。
これは私的な見解なのだが、「ピジャージュ作業がきわめて効率的である」ように思える。
これほどの力作業を、毎日安全かつ効率的に行うには、足場の安定は重視されるべき課題である。
ラディコンやラ・カスッテラーダのように、木製開放式醗酵槽にハシゴを掛けて登り、発酵槽の縁に立ってピジャージュという重労働を行うよりも、
床下に埋めてしまった方が力も加えやすく、作業の精度も増すのは明白である。
結果、他のカンティーナよりもピジャージュを丁寧に行うことができるため、その差が「柔らかな舌触り」となって現れてくるのだと思う。
反面、あの不安定な足場の上で大変な重労働をこなし、とてつもないワインを造り続けているスタンコやニコは肉体的にも精神的にも「超人」であるとも言える。
前述の「舌触り」の違いは、ラディコンのリボッラと、グラブナーのリボッラを飲みくらべて、試してほしい。
思い出の一枚
帰り際、巨大アンフォラの前で、ミハと記念撮影をした。
シンボリックこの巨大なアンフォラは、2002年まで、実際に使っていたアルメニア産(トルコの隣国)のモノである。
2000年の記念すべきワインも、この壷で作られた。
この写真が、ミハ・グラブネルとの最後の思い出になるとは、この時は思わなかった。