ゴーマンかましてよかですか! フルヴィオ・ブレッサン | Bressan 訪問 1/4
本記事は一部の読者にとって、不快な内容が含まれています。お読みになる場合は、自己責任でお願い致します。
2010年に行った Fulvio Bressan (フルヴィオ・ブレッサン)氏へのインタビューを、氏のワイン造りに対する情熱を一人でも多くの消費者に理解してもらいたい伝目的で、翻訳内容をそのまま記載しています。尚、一部の生産者名は、関係者に配慮し伏せ字にしています。
「フリウリ州のジャイアン」が造った、途方もないワイン
Bressan (ブレッサン)が造る Verduzzo(ヴェルドゥツォ)の味わいは、あまりに衝撃的だった。
かつて Nimis(ニーミス) を中心に、甘口白ワインの産地として有名だったフリウリ州一帯では、各地で ” Picrit(ピコリット) ” や ” Verduzzo ” といった品種が栽培されていた。
食中酒中心の甘口ワインが売れない時代となり、甘口ワインが主力商品だった多くの生産者が朽ち果て、残された生産者は、生き残りをかけ、辛口ワインとして生産することを試みる。
その後、シャルドネやソヴィニオンといった、辛口ワインに適した白ブドウが、市場を席巻すると、そのワインもやがて姿をけし、多くが植え替えられ、または、白ワインに複雑味を与える、ブレンド用の補助品種的な役割へとなっていった。
しかし、ブレッサンのVerduzzo(ヴェルドゥツォ)は、この葡萄が持つ金木犀やベッコウ飴のような特徴的な香りと、重心の低いどっしりとした飲みごたえがあるのにもかかわらずフィネスがあふれる、これまでにない見事な辛口ワインだった。
どんな天才がこのワインを生み出したのか、会いたくなり、彼にアポイントを申し込んだ。
降りしきる雨の中、偉大なる問題児フルヴィオ・ブレッサン、現る。
Bressan (ブレッサン)のある” Farra d’Isonzo (ファッラ・ディゾンツォ)村 ” に到着したのは、雨足が断続的に強くなってきた夕方だった。
メールに書いてあった住所を頼りに、彼のセラーを探すが、イエルマンの緑色しか発見できず、あたりは誰の持ち物か判らない葡萄畑ばかり。
政府官邸かと見間違わんばかり、町はずれの立派なレストランの前で、彼と合流することに。
間もなく、雨脚が一段と強くなる中、巨漢の赤ら顔の男が、ピカピカのTOYOTAのトラックに乗り、颯爽と登場。
うやうやしい挨拶は、大変紳士的だが、風貌と喋り口は、ジャイアニズム。 スター・ウォーズのジャバザハットすら、彷彿させる。
ジャイアンのトラックの後ろを追って、日本からきた「のび太」は、雨の中を進む。
ブレッサン家の歴史について実は、名家の出たった? ブレッサン家の歴史と” Farra d’Isonzo (ファッラ・ディゾンツォ)村
” Farra d’Isonzo (ファッラ・ディゾンツォ)村 ” は、ゴリツィアのチェントロから、イゾンツォ河の下流に沿って西に4~5km行った所にある。
ファッラの村から、わずか5km北に行けば、 ” Capriva del Friuli (カプリーヴァ・デル・フリウーリ) ” の村。
” Gianni Menotti (ジャンニ・メノッティ) ” が率いる ” Villa Russiz (ヴィラ・ルシッツ) ” や、フリウリの名前を白ワインの聖地にまで押し上げた ” Mario Schiopetto (マリオ・スキオペット) ” のセラーがある。
更にもう5km足を伸ばせば、コルモンスの ” Zegla(ゼグラ) ” の丘、更に数分国境を越えれば ” Brda(ブルダ) ” の名醸地である ” Medana(メダーナ)村 ” もある。
この、北にアルプス山脈、南にアドリア湾に挟まれた、ゴリツィア市から西側、トッレ河(河上にはウーディネ市)の東側に広がった、イゾンツォ河沿いの大平原は、歴史的に大変重要な地域である。
この一帯は、第一次世界大戦中、イタリア王国とオーストリア・ハンガリー帝国が幾多に渡る激戦を繰り広げた、「主戦場」と言える場所である。
更に古くは、ヘレニズム時代からの東西の交友地点であるケルト族由来の土地であり、この地のケルト族がジュリアス・シーザー率いるローマ帝国に対し、ゲリラ戦を繰り広げた舞台でもあった。
ブレッサン家は、ハプスブルグ帝国のマリア・テレジア(ハンガリー女王、オーストリア女大公)の時代、このイゾンツォでワインを造り続けている地主であった。
帝国に租税の代りにワインを収めていたこともある、フルヴィオはその9代目にあたり、幼い彼の息子は10代目にあたる。
フルヴィオに導かれるままに、彼のカンティーナのあるブレッサン家敷地へと入っていくと、事務所の横にそびえ立つ、ちょっとした低層マンション位の規模の大きさの、ガレージが目に入ってきた。
もはや、反則! その畑、金掛け過ぎ!
車を降りるやいなや、奥さんの Jelena(イェレナ) と息子の Emmanuelle (エマニュエレ)君、犬の Momo から「熱烈」を受ける。
自己紹介を早々に済ませ、フルヴィオの家族とともに、彼の自慢の畑へ向かう。
一目して驚く。 ここは採石所か??
ある一区画だけ、下草が刈り取られ、ゴツゴツとした赤い小石に覆われた、明らかに周囲の生産者の仕事と異なる畑がある。(奥に見えるのは Giuliani 所有の畑。違いは一目瞭然。)
F:「基本的に畑は全て、グイヨー・ウニラトゥロ(シンプル・グイヨー)式仕立てだ。この(畑の)葡萄は、ピノ・ノワール。
今の状態では、一つの枝に6房だな。(グリーン・ハーベストを行い、4房まで減らす)ブドウの樹1本あたりの収穫量は700g(公式資料では900g)。
まあ、量と品質とは相反するものだからな。 Ma*co Fe***ga のように量を求めているなら、同じようにするけどね。(笑)」
当然、イタリアでは「ピノ・ネロ」と言うべきだが、フルヴィオは敢えて「ピノ・ノワール」と呼ぶことにこだわる。
地元の著名な生産者の名前を、ケチョンケチョンに笑い飛しながら。
F:「都度、草刈り機で下草をカットしても、一端は綺麗になっても、翌月にはまた下草をカットしなければならないからな。
(コッリオの)丘の上にある畑は、下草をカットしても効果は続くが、俺たちのように平地(丘の下)の畑は、地中に水を多く含有してしまうため、雑草が活性してしまうわけだ。その都度カットするのは無駄な作業だろ。
我々は(この地方特有の)酸化鉄の小石で畑をマルチングすることで、雨による泥はね防止や、冬場の土を暖める効果も狙っている。(「マルチング」には、葉が汚れず、光合成を助け、雨による泥跳ねによる葉への細菌の着床を防ぐ、等の効果がある。)
他の連中がやらないのは、単純に金の問題だな。マルチングは、莫大に金がかかるので、丘の上にいる金を惜しむ連中は、誰もやらないんだよ。
全くもって、よくその質問をされるのだが、この畑を観て俺のことを「馬鹿」というヤツがいるのだけど、そんな奴こそ、俺に言わせれば、ワインの事を判っていない連中だぜ。
そんなおバカ連中に限って「ケミカル・ワイン」に有難がって金を払う。どうせ飲むならエコロジストのワインにこそ、金を払うべきだろ。
99%はワインを誤解している連中。1%の限られた人だけが、本物のワインの味を知っている。俺は、1%の人だけを相手にしてワインを造っているし、そのことに誇りを持っているぜ。」
この「%」でカテゴリー分けをして話を進めるのが、フルヴィオ流だ。
シリアスか、否か。それが問題だ!!
ストック・ルームへ移動しながら、フルヴィオは聞いてくる。
F:「ところで、TORU。 今回の旅行中、どこのセラーを訪ねた?」
・・・生産者なら当然気になるようだ。 何処のセラーへ行っても、必ず質問される。
T:「 Radikon (ラディコン)、 La Castellada (ラ・カステッラーダ)、 Mlecnik (ムレチニック)とか。」
F:「パーフェクト!! ムレチニックは素晴らしいね。 That is Wine !! 他は?! 」
T:「 E** K*b*r 。」
F:「ノー。 Renato Keber(レナート・ケーベル) の方は、まともな生産者だけどな。
(指で「金」のマークを出し) E**は、 Gambero Rosso (ガンベロ・ロッソ)ばかりに夢中になってる。ブランディングだけは真剣だな、あとは?」
T:「うーん、Zu**i 。 」
F:「(強烈な Boo の顔をして) No Wine !
Zu**i は今日飲んで美味しくても、翌日は駄目だね。一週間同じワインを飲み続ければ、誰でも判るぞ。 他は?!」
T:「 Borgo del Tiglio (ボルゴ・デル・ティリオ)。」
F:「 Nicola Manferrari (ニコラ・マンフェラーリ)!
彼は、Serious !(シリアス:真剣で厳格の意味)。That Is Wine !!
Zu**i は、”No Wine” ! E** K*b*r は、”Only Gambero Rosso”! Renato Keberは、まだ “Serious” !」
この、” Serious”(シリウス)か否かというのも、フルヴィオの重要な価値基準を示す1つのキーワードだ。
ちなみに、フルヴィオは、自社のワインに数あるオーガニックの団体よりも、厳しい基準を設けている。
たとえば
・在来品種の優先的使用
・セレクションクローンの禁止。
・化学合成物質の不使用。除草剤、乾燥剤、殺虫剤の完全不使用。
・栽培/収穫は手作業。
・芽かきや剪定も完全手作業。
・セレクション酵母の禁止。(天然酵母の働きによる発酵)
・天然もしくは化学的な芳香剤の使用禁止
・亜硫酸塩はボトリングの際ほんの少量(有機認証の規定値より少ないか同量)
・無濾過
・天然コルクの使用
などなど、これらは一例である。
彼が、日頃「自然派を装って消費者に言い訳している生産者を許せない」として公言する理由もわかる気がする。
地質について
T:「でも、レナートのメルロー・セレッツィオーネを、2年前にニコ・ベンサ達と DEVETAK (デヴェタク:Ristoranti d’Italia の常連で、フリウリを代表する有名レストラン。)で飲んだけど、タンニンが青苦く美味しくなかったよ。」
F:「いや、レナートが、というよりも、そもそもコッリオでメルローを造るのは難しいんだよ。
濃縮した赤ワインを造るには、本来コッリオの丘の上の地質は向いていないんだな。白ワインを造るには最適なんだけどね。
ここら( Farra d’Isonzo :ファッラ・ディゾンツォ)の平地の地質には「鉄成分」が含まれていて、この「鉄成分」が高品質なワインの凝縮感を引き出すには必要不可欠な要素なんだ。
丘の上でメルローを造るレナートには不可能なんだよ。レナートのタニックなワインを飲むには3、4年待つが必要がある。」
すかさず、奥さんはエマニュエレ君がコレクションしている、畑の石を手に取って、この土地の地質の説明を付け加える。
J:「コッリオの地質は乾燥すると白くなって脆いでしょ。これは乾燥しても砕けないのよ。」
1本1本にマジックでサイン! ジャイアンの愛情あふれるワイン、「EGO」
ストック・ルームへ移動。
F:「スキオペッティーノだろ・・・。ピニョールだろ、ピノ・ノワールだろ・・・。」
大きな体を揺さぶりながらボトルを物色している。
F:「これ、 ” Ego(エゴ)” だ。知ってる?」(もちろん!)
J:「ファビオは ” Ego(エゴ)”のボトルに、1本ずつ直筆でサインしているのよ。
自分の分身であり自信をもってリリースしている、って想いを込めているのよ。他のワインも一枚一枚丁寧に手でエチケットを貼って、1本づつ愛情をこめているの。」
F:「あと、『NO.3』 (ピノ・ネロ、スキオペッティーノ、カベルネ・ソーヴィニョンのブレンドワイン)だろ・・・。 よし、後で食事しながら、全部試そう。
いいか、TORU 。 ワインは僕の人生にとって大切なもので、僕はワインに敬意を評さない人は大嫌い。
今、フリウリで全うな造り手は、15件位しかない。他はマーケティングばかりだ。 いや、笑うけど、ホントなんだよ。
ラディコンや、愛すべきニコ・ベンサ(ラ・カステッラーダ)、変わり者のニコラ・マンフェラーリは、本当に偉大な生産者だ。
デニス・モンタナールも素晴らしいな。」
T:「デニスは友人だよ。2年前に妻と彼の家に行ったんだけど、デニスの奥さん、凄い美人だったよ。」
F:「そう、凄い美人だ。素晴らし人だよ。 彼のレフォスコ、正に『ファンタスティック』と言う言葉に尽きる。」
いよいよ、彼のセラーで「試飲」という名のリサイタルが幕を開ける。