自然派バローロの名門 – Cavallotto (カヴァロット) 訪問
Albaの町中からBarolo村のある方面へ向かう。
Castiglione Falletto(カスティリオーネ・ファレット)村につながる道の入り口となっている、五差路のロータリーを抜け、なだらかな山道を登る。
道なりに車を進めると右手に、丘の斜面を削ぎ落とすように建てられた、オレンジ色の大きな建物が目に飛び込んでくる。
建物の上部には、葡萄畑が覆いかぶさっている。
カスティリオーネ・ファレットの名門、カヴァロット
” Cavallotto(カヴァロット) ” のセラーは、Boschis(ボスキス) の丘のトップ・ヒルにある。
古典的な味わいと製法を現代に伝える名門生産者である。
Cavallotto(カヴァロット家)が、” Tenuta Vitivinicola Bricco Boschis (テヌータ・ヴィティヴィニコラ・ブリッコ・ボスキス)”として創業したのは、1929年のこと。
当初は葡萄栽培に専従していたが、1948年から、本格的にワインの瓶詰を始めた。
バローロ5大産地のひとつである” Castiglione Falletto ” には、Vietti(ヴィエッティ)や Paolo Scavino(パオロ・スカヴィーノ)、Cheretto (チェレット) といった有名なバローロ生産者がいるが、とりわけ、 Cavallotto(カヴァロット)のバローロは、葡萄の栽培から醸造についてまで、古典的なやり方にこだわっている生産者である。
ジュゼッペ氏との面談
実は、この時の訪問は、全くのハプニングだった。
日程をアレンジしてくれた ” Albergo Le Torri(アルベルゴ・レ・トッリ)” の スタッフが、誤って実際の訪問日よりも、1日前にブッキングしてしまったのだ。
※最悪なのは、僕らは、訪問後に気が付いたことだ。
にも関わらず、対応してくれた Giuseppe(ジュゼッペ)氏は、とても気持ちよく、対応してくれた。
アルド・コンテルノのジャコモ氏もそうだったが、育ちの良い方々はとても柔らかい握手をする。(労働者の握手はガツッと来ます!)
しかも、Le Torri のスタッフからは、ジュゼッペ氏のことを「地元でも有名な変わり者」と噂していた。
訪問前は、かなり身構えて行ったのだか、彼のノーブルな振る舞いと柔らかい物腰に、面を食らった感じだった。
どうやら、寝起きだったらしい。
着替えてくるまでの間、手始めに、カンティナの裏へと案内された。
カヴァロットの畑
広大なカヴァロットの畑は、Boschis の丘を、緑の絨毯が覆いつくすように広がっていた。
彼らの葡萄栽培は、シンプルである。
畑では、基本農薬も使われないし、除草剤も一切使用しない(ボルドー液のみ)。
80年代以降ブームとなった「グリーン・ハーベスト」も、ほとんど行わない。
なるべく「自然のまま」の栽培にこだわり、雑草はある程度の高さまで刈り込んでからは、自然任せ。
「自然のまま」ゆえに、収穫までに要する、葡萄への気苦労と手間暇には、想像を絶するものがある。
手前は、ノーマル・クラスのバローロ用のネッビオーロが植わる ” Bicco Boschis(ブリッコ・ボスキス) ” 畑。
画面中央の、丸みを帯びた丘のあたりは、ドルチェッット。
分かりづらいが、上記のドルチェットの丘の奥から道路の手前まで広がっているのがシャルドネの畑。
更にその道路の向こう側には(茶色の屋根の建物の向こう)、Vignolo (ヴィニョーロ)畑が広がる。
前述のノーマルクラス用の ” Bicco Boschis ” 畑の葉でさえ、とても色濃い。
楓の葉を彷彿させる程の大きさがあり、樹齢の高さを物語っている。
写真の奥の方に、ラ・モッラの村も見える。
こちらが ” San Giuseppe(サン・ジュゼッペ) ” 畑。
カスティリオーネで、最も標高の高い畑である。標高300m~350m。
「良いバローロを造るには、一定の標高が大切なのだ」とジュゼッペ氏は、語る。
この最高の畑は、当時、生まれたばかりのジュゼッペ氏の名前に因んで付けられた、とのことだ。
ゲストルームの様子
彼に案内をされるまま、カンティナの玄関へ。
真っ白な漆喰の壁と、アンティークの調度品が印象的な、ゲストルーム。
棚には、カヴァロットの歴史を物語る、アンティーク・ボトルが整然と並べられている。
初めて瓶詰めされたバローロのボトルや、馬をモチーフにしたイラスト風のエチケットのついたボトルなど、現在は生産されていない貴重なワインが、陳列されている。
噂の「変わり者」の片鱗発揮?!
ところが、ここで彼を「変わり者」という理由を理解した。
ボトルの写真をとりながら、何気なく、彼にカメラを向けると、「NO! NO! NO! NO!」と頑なに拒否。
魂を抜き取られるとおもっているのだろうか、真剣にカメラを恐れている。
何度お願いしても、「NO! NO! NO! NO!」。
実はジュゼッペさん、大のカメラ嫌いらしい。
「ワインを造っているのは僕じゃないからさー。」
「いやー、髭そってないから…。」
とレンズを向ければ顔を隠しながら逃げまどう始末。
謙虚というよりも、生理的に受け入れられないようだ。
重厚な大樽の山
ジュゼッペさんと共に、カンティナの中を見学。
先程の畑の真下にあたる場所。
煉瓦と漆喰で固められた構内は、真夏にも関わらず、肌寒く、とても静かです。
こちらは、35年以上使い続けている、巨大なスラヴォニアン・オーク。
物言わぬ古い大樽達からは、まるで巨大石造群ごとく、神々しさすら感じる。
このセラーは、きっとワインの神様・仏様に祝福されてるのだろう。
偶然、ジュゼッペ氏をとらえた、貴重な一枚。
嫁よ、でかした!
テイスティング
セラーで十分体を冷やした後は、ゲストルームに戻り、テイスティング。
ジュゼッペ氏、自らホスト頂き、全て僕らの目の前で、1本ずつ丁寧に抜栓して、サーブしてくれた。
Langhe Chardonnay 2007
ノン・バリック。
ランゲらしい石灰質からくるレモンのような香り。フレッシュ&フルーティー、そのもの。
飲み頃は、今から2010年位。
Langhe Nebbiolo 2005
所謂、「綺麗なワイン」のお手本。
エレガントでタニックさは控えめで、判りやすい程、バランスが良い。
下記、3本と比べれば、軽やかで今からでも楽しめる。
飲み頃は、今から2012年位。
Barolo Bricco Boschis 2004
前記のLanghe Nebbioloよりも、ぐっと濃い味わい。
当然、余韻も長くなり、バローロらしいスケールを感じる。
飲み頃は、2006年~2016年位。
Barolo Riserva Vignolo 2001
品種を問わずこの地の石灰質に由来する、香酸柑橘類の様な香り。
赤ワインなのでの、「ライム・ストーン」というよりは、「キンカンの香り」と表現すべきか。
軽くスワリングをすると、黒い果実のコンフィ、カカオ、タール、が津波のように襲いかかる。
最後に黒砂糖香がグラスにまとわりつく。
” Vignolo ” 畑は、” Vigna San Giuseppe ” の畑に比べ、低地に位置する。
酸味に影響を与えるといわれる砂質の割合が、地質全体の約10%占める。
色合いもルビーの色彩が濃く、果実味が全面に出てて、やや甘めの味わい。
ゆったりした柔らかさ。 なめらかなタンニン。
実に素晴らしい、ワイン。
飲み頃は、2016年~2026年位。
Barolo Riserva Bricco Boschis Vigna San Giuseppe 2001
” Vignolo ” 同様、このエリア特有のライム・ストーンの香りが初めに鼻を刺激する。
次に、花や黒スグリの香りが溢れ始める。
次第に、果実味とともに、グングンと酸が伸び、香りもカカオ、タールが顔を覗かせる。
舌触りはシルクのように滑らかくスパイシー。
最後にグラスにねっとりと、黒砂糖香が残る。
地質全体に占める、砂質の割合は、約20%。
” Vignolo ” よりも多く含んでいるため、より酸味を強く感じさせる、エレガントな味わい。
後ろ髪を引かれるような、綺麗な余韻が残る「美人系」のバローロ。
ブラヴォー! これぞ、カスティリオーネ。
そして、この ” Vigna San Giuseppe 2001 ” は、カヴァロット史上、特別なワインとなるのではないかと、そのポテンシャルを信じずにはいられない。
飲み頃は2016年~2026年が妥当だ。
2001年生まれのお子さんいたら、数本買って、セラーで眠らせ、お嫁に持たせてあげたら、いかがだろうか?
» 「ブリッコ・ボスキス・ヴィーニャ・サン・ジュゼッペ」の受賞履歴はこちら
別れ際、ジュゼッペ氏より、蔵出しの ” Vigna San Giuseppe 2001 ” を1本分けて頂き、さらにサインまで頂戴した。
これは文字通り、「家宝」となるワインだ。
(2008年夏訪問 2008/12/31記載)
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