Roagna (ロアーニャ) 訪問 1/2
この土を見てくれよ! 臭いを嗅いでくれよ!
土が生きているでしょ!
おもむろに足下の土をほじりかえし、幾重にも積み重なる足元の腐葉土を、まるで宝物のように掬い上げる。
この男こそ、1999年ヴィンテージのクリケット・パイエで世界を驚かせた、ルカ・ロアーニャである。
(2010年に出会った当時)髭を蓄えてはいるが、あどけなさすら感じさせる、30代の若者だった。
砂漠の中のジャングル? ロアーニャの畑
2012年に、新たな世界遺産の候補地としてノミネートしたランゲ地区(正確には「ランゲ、ロエロ、モンフェッラートのブドウ畑の景観」としてノミネート)は、バローロやバルバレスコなど、幾多の素晴しいワインを生み出す銘醸地である。
しかし、畑に目をやれば、草木は刈られ山肌が剥き出しになった丘が、幾重にも連なっている。
おそらく嘗ては緑が生い茂る丘であったろうが、今では、本来その地に自生していた植物を見る機会は、殆ど無い。
人々は、より凝縮した葡萄を収穫するために、日当たりのよい斜面を追い求め、可能な限り連なる丘陵に「緑のじゅうたん」を敷き詰めた。
また、ランゲ一帯の日照時間は、日本の葡萄産地と比べれば羨ましい程に長い。
空気も大変乾燥している。
夏場、葡萄畑に出ていると、太陽からの強烈な輻射熱に加え、酸っぱい薫りがするライムストーン(石灰質)や砂質の影響で、体の水分が奪われるかのような感覚に襲われる。
特に、バルバレスコは、バローロ地区に比べて、砂っぽくライムストーンが多い。
砂漠のような丘陵の中に、突如「ジャングル」と呼んでも過言ではないほど、「草、ボーボー !」の畑が現れる。
雑草まみれで、一見グチャグチャな感じ。
100年以上前から化学肥料はもちろん、有機肥料すらも施したことが無いという、ロアーニャの畑だ。
いったい、どうなっているのだろうか?
生物多様性の極限、ロアーニャの畑を散策
「ようこそ、ロアーニャへ。 ここがウチの畑だよぉ。(笑)」
カモミール等ハーブに始まり、麦、アカツメクサ、たんぽぽ、ねこじゃらし、等々が、生い茂る下草の中から顔を出す。
見れば、どの植物も、驚くほどにデカイ。
これらの野草やハーブ類と共存させることによって、葡萄自体の病気や虫に対する耐性が強くなる。
そのため、可能な限り農薬を使わないで済む、葡萄にとって理想的な環境を生み出している。
アカツメクサの花をむしり、蜜をなめる。
ほのかなに感じる蜜は、上品な甘さだ。
更に、畑の奥へ。
僕の実家の裏山(神奈川県津久井湖)のように鬱蒼としていて、とてもピエモンテとは思えない光景。
「見てよ。自然のベッドだよ。気持ちいいねぇ。」
「でもこの前、アメリカから来たワインライターは、『 蛇がでるんじゃないか?』といって草むらに入らなかったなぁ。」
力士が塩を土俵に巻くように、ネコジャラシの実をバラバラにほぐし、ポーイと辺りにまき散らした。
こうしてますます畑の環境が、複雑化していくのだろう。
巨大なクローバー。 こんな巨大植物(雑草)が、畑にうじゃうじゃしている。
セージをむしゃむしゃ。
「これは食べれる、食べられない」とまるで野草の研究者のように解説してくれる。
草花の種類が多すぎて、もはや訳がわからなくなっている葡萄畑。
但し、樹の幹は太く、力強く畝っているのが見て取れる。
これは、土に途方もないパワーがある証拠だ。
樹齢は30年~50年らしい。
葡萄棚に枝をくくりつける時に使う紐も、自然に土へ帰るものを使用している。
見て納得。他社との違い
一通り、ジャングル探検が済むと、車に乗り込んで移動。
新たに入手した、バルバレスコで最上の畑と謳われる「Asili (アジリ)」の丘へ。
突如、車をとめ、丘の見える路肩へと、僕らを呼び寄せる。
ここで行ったルカのプレゼンが、衝撃的だった。
「向こうに見えるのが、アジリの丘だよ。」
「ちょっと判りづらいけど、丘の一番トップの位置が、かの有名なチェレットの畑ね。」
「中腹より下段にある、地面が真っ白な、広大なエリアが、ブルーノ・ジャコーザだ。」
「で、ウチの畑もあるのだけど、分かる??」
「ピンクの古い建物の前の草むらがあるでしょ。あの横のエリア。 あれがウチの畑。」
「周り(生産者)の畑は、みんな下草を刈ってしまって、土が真っ白に乾いてしまっているのがわかるでしょ。」
「ウチの畑は、緑の絨毯に覆われているよね。」(右側の草むらの部分は、まだ畑にしていない)
再びセラーに戻り、畑の中で立ち話。
ナチュラルワイン生産者の話に花が咲く。
中でも、イタリア自然派の旗手であるアンジョリーノ・マウレと、親友のサーシャ・ラディコン(スタンコ・ラディコンの息子)とで、3人の住む街の中心(確かベローナだったと思う)に集い、一晩中セラーワークや畑仕事の話で盛り上がった時のことを、楽しそうに話してくれた。
「あ、この場所の土の臭いも、嗅いで言ってよね! 」
これまで沢山カンティーナを廻ってきたけど、これだけ土の臭いを嗅がされたところは無かったなぁ。
こんなものまで、草に覆われているなんて。。。