Radikon (ラディコン) 訪問 :2度目 1/4
スタンコ・ラディコンとの再会
Stanislao(Stanko) Radikon スタニスラオ・(通称、スタンコ)ラディコン。
前日、ニコ・ベンサの奥さんのアポイントに従い、Radikon (ラディコン)のカンティナ(家)を午前中に訪問。
Oslavie(オスラヴィエ)にあるラディコンの家は、ヨシュコ・グラヴネルの家と200m程しか、離れていない。
看板や目印になるようなものは無い。
角度の付いたカーブに接する、細い砂利道の奥にある。
地理感の乏しい訪問客には、大変わかりにくいカンティナの1つである。
到着するやいなや、大型犬ラッキーと小型犬のピノがお出迎え。
激しく吠える2匹だが、実はとても大人しく臆病。
軽くなでると、直ぐにお腹を見せ、甘えるように僕らの足下に、体を擦りつける。
玄関をノックした時は、家にはスタンコも奥さんのSuzana(スザーナ)さんも不在だった。
軒先で二人の到着を待つ僕らに、家事をしていたお母さんらしき人が、お水やカフェを奨めてくれた。
約束の時間から20分程遅れ、大きな買い物袋を詰め込んだスザーナさんが帰ってきた。
挨拶も早々に、買い物袋を台所に置くと「ったくしょうがないわね!」と言わんばかりに、畑にスタンコを呼び出しに。
(ゴリツィアの山の中の畑では携帯が繋がらないところが珍しくない)
なんだ、スタンコは畑にいたのか・・・。
今日、「Radikon (ラディコン)」の名前は、世界的なネームバリューを持っている。
僕らが到着した直後、20人位の外国人一行が、マイクロバスで乗り付けて来きた。
庭先でたむろしている、突然の来訪団を、スザーナさんはテキパキとアテンドをする。
その横を大股歩きですり抜け、
「Hey!! ト~~~ル!!」
と、畑仕事を途中で切り上げてきた汗まみれのスタンコが、握手を差し伸べてきた。
スタンコとは、2007年の ” Gruppo Vini Veri mini in Giappone in Tokyo ” 以来の再会。
彼のカンティナを訪問したのは、その年の夏以来である。
ラディコンの畑へ
強い日差しの指すゴリツィアの日差しの下、早速スタンコのガイドで、畑を巡る。
普段「破天荒でヤンチャな面白オヤジ」のように振る舞うスタンコ・ラディコン。
しかし実際は、緻密な計算と周到な準備をし、超人的な精神力でそれを実現させてしまう人物である。
ワイン生産者として、彼は間違いなく「常軌を逸した天才」の一人である。
彼は自らの畑に、他の生産者では考え付かないような、例え考えたとしても実行に移そうと思わないような、「常軌を逸した」創意工夫や仕掛けを施している。
まずはセラーの眼下に広がるリボッラ・ジャラの畑へ。
急斜面に植樹されているこの畑も、他のCollioの造り手の畑と同様に、この年(2008年)は夏の長雨の影響による結実不良が起きていた。
ラディコンの厳しいチェックをすり抜けた、ミイラとなった房が、ところどころになっている。
「今年はついていない」と言わんばかりに、ミイラ見つけては、引きちぎり、地面へ捨てる。
更に雹(ヒョウ)の被害は深刻だ。
この年降った拳サイズの大粒の雹は、多くの生産者の葡萄の房を傷つけた。
傷ついた葡萄は表面が黒くなる。
ラディコンの畑の葡萄は、まだ幸運な方だった。
太陽に面さない、斜面向きの葡萄は、葉が傘の役目を果たしたおかげで、雹の被害から免れることができた。
このリッボラ・ジャラは、10月から始まる収穫を待たずして、驚くほどの甘さだった。
「常軌を逸した」創意工夫
ラディコンの畑には、ユニークな仕掛けがいつくもある。
そもそも、極端な急斜面に葡萄畑を造るということ自体、農作業の効率もさることながら、土木工学的にも大変なことなのだが、上記の図のように、彼の畑は、畝や棚が水平ではなく、斜めに角度をつけてレイアウトされている。
更に、畑の地下とあぜ道(畑と畑の間の道)には排水溝が巡らされている。
雨水は滞留する前に、溝に流れ、下方へと落ちる。
また、雑多に生えた畑の雑草が、地表に落ちた雨水を適度に吸い上げ、葡萄の根が必要以上に水分を吸い上げるのを防いでいる。
「今から面白いものを見せてやる」と言わんばかりに、地べたに落ちている石ころ拾い、この排水溝に落としてみせる。
石ころは、コロコロ、コロコロと音を立てながら1分以上も転がり続け、溝から軽快な音を辺りに響かせる。
あまりに僕が次々と畑に関する質問を続けたため、話に夢中になりすぎて、急勾配の畑を下りすぎてしまった。
おかげで、セラーのある頂上へ登る坂が、本当にキツイ。
「俺は今日、もう3回も登っているよ~」
と弱音を吐きながら、息を切らせよじ登るスタンコ。
急斜面の畑は、初老の大男に、大変な重労働を強いている。
古くからのラディコンのワインを飲んでいる人に、ピンとくる、両手で葡萄の房を持ったレリーフ。
彼が建てたセラーの正面上部に、飾られている。
レリーフは、畑を下から登ってきて、はじめて正面に見える。
メルロー畑、そしてピニョーロの畑へ
メルローは、リボッラ・ジャラ以上に深刻な打撃を受けていた。
しかし、葉は驚くほど大きく、実は充分すぎる程に甘い。
残念ながら収穫減は免れないが、むしろ、厳しい年だからこそ、彼の畑の実力を証明していた。
このメルローが植わっている畑の奥まった所に、ピニョーロの畑がある。
今、彼が一番楽しみにしている葡萄だ。
昨年グラヴネルを訪問した時も、ミハ・グラヴネル(グラヴナー)に、仕込み中のピニョーロ03を、飲ませてもらったことがある。
スタンコ・ラディコンも、ピニョーロの将来性に大きく期待を寄せている。
このピニョーロの畑の下にも、畑に染みた雨水を排水する管や溝が張り巡らされている。
彼の説明によれば、この排水システムによって、単に下草を茂らせただけの場合よりも、約20~30%葡萄の凝縮感が増す、らしい。
畑の石積み作業は、4人掛かりで2台のマシンを使って自分達で行った。4ヶ月の月日を費やして。
嘗て、ラディコンは、省コルクで空気接触面積の少ないボトルを、エディ・カンテと共に開発した。
今や自然派ワインを味わうために必要不可欠とされる、マセレーションした白ワインを味わう為に最適な「ラディコン・グラス」もデザインした。
なにより、9フリウリの白ワインにバリックを導入したリード・オフ・マンは、ラディコンである。
彼の先見の明と超人的な天才ぶりは、底知れない。
更にこのピニョーロの畑の前には、1本の木があり、その木陰には大木を切ってこしらえたスタンコ特製のベンチがある。
スタンコはこのベンチに座って、疲れた体を癒すのが、大のお気に入りだ。
「疲れちゃったらさぁ、このベンチで休むんだよぉ。
あっち(左側)がゴリツィアの丘、あっち(右側)がゴリツィアの街の方。
景色がとっても綺麗だろぉ。」
と、お茶目なラディコンに、うちの嫁さんは「可愛い♪」とすっかりメロメロ。
ピニョーロ畑のベンチから眺めるゴリツィアの丘は、どこか懐かしさを感じる。
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