ロータリー・ファーメンターの伝道師、Paolo Scavino (パオロ・スカヴィーノ) 訪問
※諸般の事情により、旧ブログの記事をこちらに転載しました。
ロータリー・ファーメンター(回転発酵槽)の伝道師、パオロ・スカヴィーノ。
ネット酒販店を中心に、インポーターさん経由の生産者のプロフィールが沢山列挙されているので、当ブログでは割愛させて頂きます。
詳細は、Paolo Scavino のHPを参照頂ください。
パオロ・スカヴィーノの歴史
「バローロ・ボーイズの第一世代」と言われる、パオロ・スカヴィーノだが、ワイナリーの創業は、1921年(大正10年)。
以来、 ” Castiglione Falletto(カスティリオーネ・ファレット)村 ” で、バローロを造り続けている、老舗中の老舗である。
現オーナーのエンリコ氏は、1980年代後半、エリオ・アルターレを旗頭とする「低収量」「フレンチ・バリック熟成」を行う、「バローロ改革派」と呼ばれる一連のワイン造りへと大きな舵を切った。
若い内から楽しめる、果実味の豊かな、こうしたワインがアメリカ市場で高い支持を得たことにより、スカヴィーノのワインは世界的な評価を手中にした。
このワイナリーを語る上で忘れてはならないのは、1990年代にバローロ生産地で初めて醸造工程に導入した「ロータリー・ファーメンター(回転発酵槽)」の存在だろう。
「魔法の機械」は、葡萄の果皮からより強いアントシアニンを得ることができ、バローロの主原料であるネッビオーロのが持つ厳しいタンニンの刺激を柔らかくする。
パオロ・スカヴィーノは、この「魔法の機械」の絶大なる効果を、世界中のバローロ愛好家に証明してみせた。
同時に、保守的なランゲ地区の生産者達に、どういうワインが市場から求められているのかを、自身のワインで突きつけた。
色が濃く、凝縮感があり、タンニンが滑らかで、早くから楽しめる新しいタイプのバローロは、いつしか「モダン・バローロ」と呼ばれ、そうしたワインを造る生産者達は、「バローロ・ボーイズ」と呼ばれるようになった。
パオロ・スカヴィーノは、モンファルテ・ダルバのドメニコ・クレリコと共に、この「バローロ・ボーイズ」の代表として、マルク・デ・グラツィア・グループをけん引することになる。
正しく、「ロータリー・ファーメンター伝道師」である。
今日、「モダン・バローロ」の生産者達は爆発的に増え、その生産の現場には、ロータリー・ファーメンターが、ほぼ標準的に導入されている。
モダン・バローロの成功を目にした、他の州の生産者も、ロータリー・ファーメンターを次々導入し、より葡萄から濃いいエキスを抽出したい、と願っている生産者達に大きな影響を与えた。
セラー
毎年毎年、この偉大な改革者との謁見を求め、世界中のワインラヴァー達が、まるで巡礼者の如く、スカヴィーノのセラーを訪ねてくる。
僕も熱心な巡礼者のひとりとして、カンティーナの入口をくぐった。
僕らを出迎えてくれたのは、全身黒ずくめの衣装を身にまとった、ランゲ地区きっての(?)シャネラーである、エンリカさん。(左は庶民を代表して、うちの女房殿)
一昔前のガングロ族を思わせる程、全身日焼け。
どうみても農作業での焼け方ではない、見事な「セレブ」焼けである。
セラーで使っているフレンチ・バリックだって、ここまでハード・ローストにはしていない。
樽と熟成へのこだわり
さて、煉瓦で覆われているセラーの中の空気は、ひんやりとしていて、そのワインをたたえたバリック達が、静かに眠っている。
2008年現在、パオロ・スカヴィーノは6種類のバローロを作っている。
どのバローロも、基本的に1年間はバリックで寝かせ、その後ボッテ(大樽)へと移して熟成を行う。
スカヴィーノのボッテ(大樽)は、伝統派と呼ばれるバローロの造り手達が使用する、Garbellotto(ガルベロット)社製の大樽とは大きく異なる。
最高級のバリックを生産している世界的メーカー「TARANSAUD(タランソー)社」に、特注で作らせたフレンチ・オークを使った大樽を使っている。
※TARANSAUD(タランソー)社はボルドー右岸のコニャック村に本拠地を持つ、フランスの会社
つまり、スカヴィーノ、オリジナルの特注の大樽を使用している。
因みに、モダン・バローロの造り手だけでなく、伝統的バローロの生産者の元を訪ねても、赤紫のパッケージに覆われ未開梱のままで山積みにされている TARANSAUD の新樽を、目にすることが多い。
特に、バルベーラやドルチェットを造っている生産者は、バリックの効用を認めているところが多いように感じる。
※TARANSAUD のバリックは大変高価で、現在1樽1,000ドル前後。
また、同社では「バクテリア発生による品質低下を避けるため」として、この特注大樽を、8~9年毎に交換している。
スカヴィーノのセラーがある、 ” Castiglione Falletto(カスティリオーネ・ファレット)村 ” の名門といえば、カヴァロットが有名だが、伝統的なワイン醸造を行うカヴァロットでは、数十年も1つの大樽を大切に使い続ける。
村の丘の上(カヴァロット)と丘の下(スカヴィーノ)の位置関係にありながら、ファイン・ワインに対する哲学が全く異なっているのは、実に面白い。
こちらはボトルが眠る廊下。
2001年前後のヴィンテージ・ワインのボトルが、ずらりと並んでいる。
更に廊下を進むと、2006年の瓶内熟成中のバローロが並んでいた。
日本で飲める日が待ち遠しいかぎりである。
ゲストルームでのテイスティング
渡り廊下を通りゲストルームへ。
水で綺麗に洗い流された、煉瓦敷きの床を見る度に、ワイナリーに来たなぁ、と実感する。
まるでインテリア雑誌から飛び出してきたようなゲストルーム。
暖炉の前には、ワイン・スペクテーターやドゥエミラヴィニから送られたレリーフなど、パオロ・スカヴィーノの栄光の証しが、陳列されている。
アンティーク家具や棚の上には、スカヴィーノにとって歴史的なヴィンテージだけでなく、ブルゴーニュのグラン・ヴァンのボトルも飾れていた。(確かにソゼのモンラッシェは、旨い。)
すっかり打ち解けたエンリカさんに、 ” Castiglione Falletto ” の地図をもとに自社畑やテロワールの詳細について、教授頂く。
” Castiglione Falletto ” で最も有名なクリュ ” Vignolo ” をひと畝超えたところに、このセラーの顔とも言える「Bric del Fiasc(ブリック・デル・フィアスク)」の畑があった。
それぞれの畑の地理的条件について話に耳を傾けながら、スカヴィーノのバローロをテイスティングさせて頂いた。
スカヴィーノのバローロのラインナップと試飲
パオロ・スカヴィーノでは、ノーマル・クラスのバローロに加え、上記写真にあるクリュ(単一畑)の概念を持ち込んだ、ハイエンドのバローロを6アイテム、計7アイテムのバローロを生産している。
- BAROLO CAROBRIC (カロブリック)
- BAROLO BRICCO AMBROGIO (ブリッコ・アンブロージョ)
- BAROLO CANNUBI(カンヌビ)
- BAROLO BRIC DEL FIASC(ブリック・デル・フィアスク)
- BAROLO RISERVA ROCCHE dell’ANNUNZIATA(ロッケ・デッラ・ヌンツィアータ・リゼルヴァ)
2008年からはBAROLO MONVIGLIERO(モンヴィリエロ)というワインが上記に加わる。
このワインは、2007年までは、ノーマル・クラスのバローロにブレンドされていたものを、新たに単一畑としてボトリングしたものである。
Bric del Fiasc 2005 (ブリック・デル・フィアスク)
訪問した前日にボトリングされたもの。
強いエステル香、ライムのようなミネラル香、プルーンの香り。
ミドルからアフター迄の間に一気にボリュームが広がる。
味わいのスタートからフィニッシュまで、細長く酸が一本通っている。
凝縮感がありながらも、エレガンスを感じさせるのは、「Castiglione」のテロワールによるものだろう。
フラッグシップワインの Rocche dell’Annunziata (ロッケ・デッラヌンツィアータ)よりも好き。
Bricco Ambrogio 2004 (ブリッコ・アンブロージョ)
アンブロージョは初めて飲みました。
色は濃く、アントシアンが強く抽出されている。
いかにも「ランゲの土地」というような、ライム・ストーンの香が一気に上がってくる。
前述の Bric del Fiasc と比べると、オイリーで「ゆったり」とした印象。
フルーティーさと厚みを感じるのは、ヴィンテージが若いからだろう。
エンリカさん曰く、アンブロージョ2004 はバリックを使っていないとのこと。
Bricco Cannubi 1999 (ブリッコ・カンヌビ)
「Cannubi」という言葉からは連想できない程、色が濃く抽出されている。
9年経過し、タンニンは落ち着いていて、ソフトな舌触り。
「凪」のような穏やかさ、全体のバランスの良さを感じるが、何か1つ面白味がない。
「いいとこのお坊ちゃん」的なワイン。
テイスティングの最中に、御大エンリコ・スカヴィーノ氏が登場。
エンリカさんともツー・ショット。
なにか、夜のお店のような雰囲気がするのは、何故だろう。
(2008年夏訪問、2009年3月31日記載)